武蔵野の自然

井の頭公園の希少な植物と樹木との共生 2022年8月

井の頭公園やその周辺には、100年の時を経て形作られた瑞々しい樹林があります。樹木を見るとき、私たちはたいてい上を見上げるのではないでしょうか。美しい木漏れ日に目を細めたら、枝から幹、そこから地面に視線を落としてみてください。木々は地面の上と下をつないでいます。根元からは、栄養分や水分を吸収する重要な役割を持つ根が、地下に向かって伸びています。

森の中の多様な植物種は、土の中で様々な微生物と共生しています。わたしたちの普段の生活では目にすることはありませんが、現在地球上に存在する陸上植物のうち、少なくともその90%の種が、根に真菌類(きのこ・かび)を共生させています。


その中でも菌根菌は、植物の重要な栄養素であるリン酸などの養分や水の吸収を助けています。


植物は自らを取り巻く土壌微生物の中から役立つものを選び、植物が海から陸へ進出した4億年以上も前から、共生関係を作り上げてきました。一方、真菌類の方でも、植物から糖類を報酬として受け取ることで、持ちつ持たれつの関係を形成しています。生態系には、見えないネットワークが張りめぐらされているのです。

ランはその美しさと希少性で大変人気のある植物です。野生ランの盗掘が問題になっていますが、ランの多くは、樹木・共生菌・ランの間に三者共生の関係を結んでいて、特定の菌や樹木がないと、生きていくことができません。


ラン科の植物は環境の変化に弱く、また開発による自生地の消失や雑木林の荒廃により減少し、希少植物となっているものが多くあります。ランを守るには、樹木も土の中の共生菌も合わせ、環境ごと保護することが重要です。

今回の工事予定地にもこのような希少な植物が生育しています。この場所は、広大なエリアではありませんが、長年にわたり樹木が成長する中で、樹冠、樹木上、地面の下で生きものたちの命のネットワークが形成されてきた重要なエリアです。井の頭公園の西側の一角という絶妙な位置にある樹木を、多くの生きものたちが生息地や中継地として利用しています。そして、それを愛しんできた住民や訪問者たちがいます。公共工事の計画時には、生態系の適切な調査を行い、保全や人との関係を十分考慮していくべきだと考えます。



🌳菌根菌についてもっと知りたい人は、以下のサイトもご参照ください。

(今回参照させていただきました)

東北大学のサイト


JT生命史研究館


東京都公園協会・神代植物園植物多様性センターのリーフレットも参照させていただきました。